「漆器まつり」御礼

はじめての「漆器まつり」、本当にたくさんのお客様にお越しいただきまして心より御礼申し上げます。

漆器は、一般的な道具とちがい複数の材料、工程を経て出来上がるものなので基本的な構造や材料に関する知識がなければその良し悪しの判断をつけづらいものです。したがいまして蛇足ではありますが、漆に関する話を少ししておきたいと思います。

今回の漆器類は制作年代が主に明治から大正のもの、モダーン漆器に関しては昭和40年ごろまでの商品です。合成漆器が台頭してくるのは戦後、高度経済成長による工業化の影響が大きかったということはお話ししましたが、それ以前の木製漆器は純国産であると思われる方も多いと思います。しかし意外なことに漆という材料は100年以上前の明治28年ごろから国産を輸入が上回っています。輸入自体は鎖国下の江戸期から行われていたようです。さらに戦後は国内の漆生産量は激減し輸入依存度は99パーセント近いという状況が長年続いています。

ですから素地の木や上塗りは国産のものを使っているにしても下塗り、中塗りには外国産漆を使うというのがほとんどのようです。真っ当な漆器屋さんでは現在でも天然漆の輪島塗箸が1膳1500円程度で買えると申しましたが、これも輸入漆あってこその値段です。国産の木を使った国産の漆だけで塗り箸をつくるとすると、おおよそ1膳が8000円以上はします。天然木にポリエステル樹脂を塗った一見して同じように見える塗り箸が100円から販売されていることを考えると、売れませんよね。同じように見える100円の箸と8000円の箸…


そうなると外国産漆よりも国産漆のほうが良いのか?という疑問が湧いてきますが、これは生産される地域によって漆の組成がことなります。漆は中国、日本、ミャンマー、タイ、カンボジア、韓国といったアジア圏でしかとれませんが、日本に輸入される漆はそのほとんどが中国産です。この国産漆と外国産の漆、何がちがうのかと言いますと主成分ウルシオールの濃度です。一般的に中国産、韓国産に比べ日本産のもののほうがウルシオール濃度が高く品質が優れていると言われますが、実際には中国産も各省で幅広く採取されており国内でも大和産、相模産など産地ごとにもかなり成分に違いがみられることもあり一概には日本産が優れているとは言えないようです。漆そのものよりも明治、大正の漆器と現代の漆器、その大きな違いは作っている人の違いのほうが大きいような気がします。

いまではほぼ絶滅した「職人」と言われる人たち。以前にも博多包丁の件で書きましたが、いわゆる丁稚奉公ができなくなったのは労働基準法が昭和22年に制定されたためです。それ以前の塗師屋(ぬしや)の徒弟制度はどうだったのかと言いますと、江戸幕府藩政のころは年季(勤めを約束する期限)が13年、明治の初めは9年、大正時代は7年だったそうです。親に連れられて酒一升を持って弟子入り、親方の家に住み込みで兄弟子の世話や家事や子守などの雑用をこなします。本来の仕事のほうは3年目で初めて塗りの仕事が与えられ、年季明け一年前にようやく上塗りが許されます。しかもそれはみなができるのではなく、品行方正、技量優秀なものだけが許されたといいます。そして年季明けになると親方と親子盃をし、名の一字をもらって独立します。それだけの年月に努力を要する「職人」の仕事が、現代の漆器作家と比べるべくもないのは仕方のないことです。
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職人個人の技量自慢よりも、見えない下地にしっかりとした技術をを施すという誇りのある仕事は、きちんと責任を負っています。つくったものに作家銘を入れるようなことはしませんが、職人が責任を持って作ったものには、共箱や包装紙に屋号や職人個人の名前が印字されているものも多くあります。

とくに輪島地方の職人には小唄、三味線、謡曲や俳句などの遊芸は一通りおさめた人も多かったそうで、輪島の芸者がほかの地方にくら替えするとお給金が上がったそうです。芸達者なお客の相手をしているから自然と芸者の芸も上達するんですね。時代のながれだとはいいますけれど、そうした人間らしい余裕をもった職人が作ったものはおのずとその作品にやわらかみというか深みがあるのは必然の様な気がします。しかし失ったシステムを再び、というのは無理な話ですし懐古主義には陥りたくありません。国内でも岩手県の浄法寺漆は生産量を増やす試みが盛んに行われています。そうした活動を後押しする意味を込めて良い商品を見極め、現在作られている漆器を手にとってみて欲しいと思っています。




さてさて、長くなりましたが今回の「漆器まつり」において実際に漆器を購入して使ってみた!というかた、もしよろしければ今回コメント欄をつけておりますのでご意見、ご感想をお寄せいただけましたら幸いです。わたくしこけしは店頭に立つことがめったにないものですからお客様と直接お話しする機会もないもので、いつもブログを見てるだけ、といった方もこの機会にご要望、ご批判等頂戴できましたらとおもいます。
そしておまけ…

話はそれますが、わたくしどもの様に古いものを扱っていると特に漆器の場合は器の狭間に緩衝材として紙が挟んであります。その紙で一番多いのは反古(ほご)、書き損じの紙類です。
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これは大正時代の履歴書。達筆です。

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新派劇の北国巡業ちらし。娯楽の少ない地方では歓迎されたでしょうねぇ。

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子どもの落書き。鉛筆でちょちょっと書いたものですが、ちゃんと女性が着物を着ています。新鮮ですね。今の子供、それどころか大人も着物を着た人の絵を書くことできないでしょう。衿とか袖とかどうなっているのか詳しく知らないでしょうから…

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同じ子の書いたものですが、女児と男児が洋服をきているものの、両人の手には日の丸の旗。時代を感じますねぇ。


このようにいろいろ挟まっているわけですが、見過ごすにはもったいないほど面白いものがたくさんあります。骨董市などで箱入りの漆器を見つけることがありましたら是非、包み紙も良くご覧になってみてください…
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