2010/12/16
みなさま、そもそも「漆器」の定義を御存知でしょうか?
広辞苑では「漆塗りの器物」とあります。日本標準産業分類では、「漆器製造業」というのは「木材・木製品製造業およびプラスチック製品製造業の一部」も含まれます。つまり、プラスチック成型加工業者や吹き付け塗装業者、いわゆる合成漆器を作る業者も漆器組合などに含まれているということです。
新しく漆器を購入する場合は、商品に「家庭用品品質表示法による表示」の小さな紙がついていますね。しっかり見ないまま捨ててしまう人も多いかもしれませんが、ここにはあなたの買った漆器の分類が表示してあります。漆器の呼称は必ずしも統一されているわけではないのですが、大きく分けると以下のように分類できます。
「漆器」…素地の如何を問わず天然漆を塗った製品
「合成漆器」…天然漆以外の塗料を塗った製品
つまり、一番上に漆が塗ってある製品は素地がプラスチックであろうとみな本物の漆器と言えるわけです。ただし一般消費者は「天然素材に天然漆を塗ったもの」だけが本物の漆器という認識です。「ホンモノの漆器」という定義自体に生産者と消費者の間で食い違いがあります。
さらにもっと詳しく、見えない素地の部分に何を使っているのかということを含めると以下のようになります。
「木製漆器」…天然木に天然漆を塗ったもの。デパートなどでよく見る伝統的工芸品に指定されているものはすべてこれに該当します。一般的にホンモノの漆器と思われているものは、これ。
「樹脂製合成漆器」…木粉加工品(圧縮材)や合成樹脂の成型品(プラスチック)に各種の合成樹脂塗料を塗ったものはすべてこれに含まれます。
「異種積層合成漆器」…素地の如何を問わず塗装の段階で異種の塗料を併用した製品。
「異種積層漆仕上げ合成漆器」…最後の仕上げに天然漆を使用した製品。
難しいですね。一般消費者が見て理解できない表示は、表示していないのと変わりないと思います。しかも昨今ではプロでも見分けのつかないような精巧な合成漆器もあるといいますから話は複雑です。天然木に天然漆塗ったホンモノの漆器(木製漆器)を手に入れたいと思うのならば信用できるお店を選ぶことと、消費者側もある程度の漆器に関する知識を得ることが必要です。
さて今週末19日(日)まで開催中の「漆器まつり」、商品紹介のつづきです。今日の分はホンモノの漆器とニセモノの漆器が順不同で混在していますので注意深くご覧くださいませ…

輪島塗お屠蘇セット1500円。

美しい沈金です。

これってありえない値段ですよね、というご指摘をいただきますが、ごめんなさい。お盃がひとつ行方不明です。

しこく彫3段くり抜き弁当箱。

大根みたいな弁当箱です。共袋付1000円。

見事な沈金の杯と台セット1000円。

よく見ると松竹梅がムッチリ。

美しいツヤっツヤのお屠蘇セット。ニセモノです。ただしあまり漆器に感心のない人が、これだけ単体で見る大抵は「ああ、立派な漆器だなぁ」と思うことでしょう。

素地はフェノール樹脂(プラスチック)で上塗りも合成樹脂塗料だと思います。合成漆器の代表の様な作りです。

蓋裏が一目瞭然にプラスチック。そしてこの製品が入っている紙箱には大きく「輪島型屠蘇セット」。輪島型って…後生大事にこのようなニセモノ漆器を押し入れに仕舞いこんでいるご家庭がどれだけあるのか想像すると恐ろしいです。是非店頭で本当の漆器と比べて触ってみて欲しいと思います。

おめでたい木製漆器の丸皿。

のびやかな絵柄が時代の古さを感じさせます。往々にして古い漆器は絵付けがのびやかでモチーフも斬新です。器自体もまん丸でなかったり凸凹していたりと柔らかみがあります。

安直な柄付けが怪しい、三羽鶴松満菓子器。作家銘もあり立派すぎる桐の共箱に入っていますが100円。

同じ大きさの木皿38枚。どれでも1枚100円。

木目が美しいのです。実用的な美しさ。

木製漆器箸箱。

中は朱。

布着せ本堅地輪島塗の丸盆。本来は給仕盆、通い盆ですが、季節の飾りものをしたりするのにちょうどよい無地の盆です。

こぼれ松葉が愛らしいモダーン盆。素地はABS樹脂。
以前にも書きましたが当店では通常もモダンな絵付けの合成漆器を好んで取り扱います。単純に色柄が可愛らしいと思うとともに、その作品にホンモノを真似たニセモノであるという後ろめたさがないからです。合成樹脂の特質を生かした丈夫な合成漆器として堂々と販売されているものは消費者がその意味をわかっている限りは良いことだと思います。
汁椀いろいろ…

呂色塗りのつやつや輪島塗椀。その深みのある艶とゆがみのあるおおらかさが楽しいお椀です。昭和初期のものです。1客100円。

えび茶色の椀。伊勢海老が質感は本物そっくりに漆絵で描いてあります。光正銘入り。1客400円。

洗朱につくしの椀。一客200円。なぜにつくしなのか?ズンズンと勢いよく伸びるつくしが描かれています。この椀はお直しがしてあるのですが、それがチマチマとわからないように直してあるのではなく、堂々と若干色味の違う漆で補修してあります。昔のひとの漆器に対する接し方が伺えます。

蓋と椀をまたいで壽の文字が蒔絵してあるめでたい椀。昭和初期。下地からきちんと作られている椀です。一客500円。

蓋の内側には、松ぼっくり。

力強い牡丹の蒔絵の椀。少し大ぶりなのでお雑煮椀としても良いでしょう。1客500円。

一見上品な輪島塗風の椀。上塗りは漆のようですが、下地はおそらく合成樹脂だと思います。一般的に合成樹脂を素地にした場合に現れる問題、たとえば木製素地にくらべて重たいとか逆に軽いとか、ぶつけたときに特有の音響、厚みであるとかそうした差異をうめるための策がとられています。素地の成形の際に樹脂発泡を行い重量、外観ともになるだけ木製品に似せるように作られているということです。1客100円。

これはわかりやすく合成漆器。一番頑丈です。1客100円。

明るい朱の本堅地椀。蓋の部分が三日月形になっていて蒔絵の鷹が空を飛んでいるように見立ててあるようです。明治中期のもので1客100円。

乙女好きしそうな千鳥の蒔絵椀。木製漆器で少し大き目。1客300円。昭和初期のものです。

ツヤツヤ呂色仕上げの蝶の蒔絵椀。木製漆器ですが明治のもので傷みがあるので1客100円。

富士山に松の漆絵の本堅地椀。1客100円。

写実的な美しい牡丹の蒔絵の椀。

梅に松の蒔絵、本堅地椀。1客100円。椀の底に「山」などの文字が書いてあるものがありますが、昔は買ったひと(注文した人)の名字の一字を目印に入れたりしたものです。
「椀講(わんこう)」というものを御存知でしょうか?江戸時代には裕福な町人が漆塗りの椀や膳を数多く取り揃え保有することがステータスとなったわけですが、一般庶民は椀講で漆器を購入した人が多かったようです。いまでも漆器といえば「輪島塗」と誰でもが口にしますが、輪島塗が全国に販路を拡大した理由は、品質の高い製品の量産体制を確立したことに加え、行商による椀講で安定した販売先を確保したためだと言われています。これは10人の顧客がグループ(講)を組み、各人が商品の価格の10分の1のお金を10回払います。商品は抽選で10年かけて毎年ひとりに納品されるというシステムです。こうして購入した漆器は修理が必要になれば行商人を通じて輪島に持ち帰り補修され再び使われるという効率的なもので顧客の信頼を得たのです。